大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)2199号 判決

弁護人Aの所論は要するに、(一)原判決は、被告人等の占有が業務上のものであることの判示を欠ぎ、かつ横領の客体が他人の物であることの判示を欠いでいる、原判決では被告人等が着服横領したという金員の所有権者が不明である、(二)(イ)原判示の兵庫県住宅復興協会は、昭和二十二年頃、県住宅課の仕事を後援するため設立されたものであるがその真の設立目的は、制規の手続では県費をもつて賄い得ない経費又は県費で支出するを妥当としない経費を支出するためのもので、いわば機密費又は雑費支出団体であるから、右協会の会計から原判示第一記載のような接待費、食糧費、土産費、課員の旅費の補助等に使用するのは当然であつて、被告人の前任課長鈴木好一、その前任課長日高喜代蔵時代からの慣例であり、かつ、上司である建築部長吉田信武も承認していたのである。(ロ)原判示の資材会計というのは建設省から、セメント、木材、金具等の計画住宅建設用資材を府県を通じて各市町村に配給し、府県は市町村から代金を受け取り、これを建設省に送付していたが、これについて、建設省の会議で、本省は原価に三パーセントを加算して府県に送り、府県は更に三パーセントを加算して配給し、その差額は府県において自由に使用してよいことに決定したので、府県では市町村から受け取つた代金の中から建設省に送金した残額を手数料として、それから人件費、運賃等の諸経費を支払いなお余剰金を生ずる計算であつた、兵庫県においては右配給の事務処理のため資材会計と、ほかに燃料配給事務処理のため燃料会計という二つの帳簿と二つの預金通帳を作つており、雑費が必要なときは右資材会計から復興協会の会計へ繰り入れ支弁していたのである、然るに、被告人片山が住宅課長として着任する前に前記計画住宅建設用資材の配給事務が廃止せられ、被告人片山はその残務整理に当つたが、その余剰分が現金、残存資材、未収代金を合せ五百三十七万円あることが判明した、この金員は雑費として使用できるものであるから、復興協会に繰り入れてから使用する必要がなくなつたので、直接資材会計及び燃料会計から雑費を支弁したのである、原判決が、これを「自己又は住宅課員その他のものの飲食費、遊興費、出張旅費補助、本省(建設省)係官等の接待費」に支出し得ないものと判示したのは事実誤認であつて被告人片山は前記の三会計からかような雑費を支出する権限を有したのである、かりに使途一定の資金であり、かつ、手続を経ずに他の目的に流用できないものであつても、自己のため不正に領得しない以上横領罪を構成しないのである。(三)前記の余剰金員五百三十七万円を無償で兵庫県住宅建設株式会社(住建)に交付する旨の決裁をしたことから知事等の汚職嫌疑が発生し、その捜査中住宅課内の雑費支出が多過ぎる点が取り上げられ、派生的な本件だけが起訴されたのであるが、被告人片山が住宅課長として着任した当時には、県の職員と住宅復興協会から俸給の出ている職員と合わせて五、六十人居り、住宅金融公庫事務、県営鉄筋住宅の建設、ジエーン台風の被害調査、県費補助の査定等多忙であつたうえ、右の事務に関して中央から議員や官吏の来訪が多くその案内接待、課長自身の上京出張、課員の居残り残業が多かつた、被告人片山はかような雑費の支出決裁中、内容を知つて押印したものと然らざるものとがある。その決裁印だけによつて同被告人に横領の責任を負わせるのは事実誤認であるのみならず、同被告人において住宅建設に役立つものと判断して支出したのであるから、自己に領得する意思を欠ぎ横領罪を構成しない、(四)原判決は、被告人両名が共謀のうえ神戸銀行において払戻を受けて着服横領したと判示しているが、その実行々為者を判示しなかつたのは事実誤認である、(五)原判決は、住宅復興協会の現金の出納保管者が被告人であることを判示せず、「三会計」なるものの判示を次ぐ等理由不備又は理由くいちがいの違法がある、(六)被告人片山に対する量刑が不当である、というのである。

弁護人Bの控訴趣意は、(一)原判決添附犯罪一覧表記載の金員は、兵庫県所管の金ではない、原判示の資材会計、燃料会計、兵庫県住宅復興協会会計の三会計の金は、県議会の予算決議を経たものではないから、県知事はその処分について県議会の承認を要せず独断で決裁できるところ、県知事は、右三会計の金を、セメント、木材等の物資とともに昭和二十五年五月十日附決裁の公文書により県から兵庫県住宅建設株式会社(住建)に移譲し、住建は県に受書を出しているから、同日以降は右住建所有の金員となつたのである、原判決が本件の金員の所属を審議せず、従つて委託関係及び被告人等の処分権限を審理しなかつたのは審理不尽であり、引いて事実を誤認している、(二)本件の費消は、住宅建設推進を目的とする住建の目的に添うて支出したものであり、委託者たる住建の暗黙の承認があつたものである、(三)被告人中村は上司の命のまゝに動いたのであつて、横領の犯意がなく、従つて被告人片山と共謀したことはない旨事実誤認を主張するのである。

原判決の冒頭及び第一事実の趣旨とするところは、被告人片山菊治郎は、昭和二十五年四月十二日附で兵庫県建築部住宅課長となり、県営住宅の建設、管理、その敷地の買収に関する事務等を担当し、その他に住宅課長として、建設省から県を通じて各市町村等に配給する計画住宅建設用資材の配給の残務整理の事務を担当し、この配給事務処理のために住宅課内に資材会計と燃料会計とがあつて、その現金の出納保管をし、また、兵庫県住宅復興協会の常務理事としてその現金の出納保管をし、更にまた、兵庫県住宅建設株式会社の業務運営委員会の常任幹事として同会社の住宅建設、経営に関する指導監督の事務に関与しその敷地の買収等の事務にも関係し、被告人中村俊夫は、同課庶務係長として被告人片山の前記事務を補佐し預金通帳等を保管していたところ、第一、被告人両名は共謀のうえ、自己、住宅課員、その他のものの飲食費、遊興費、出張旅費補助、建設省係官等の接待費(いずれも右資金をもつて支出し得ないもの)にあてるため、ほしいままに兵庫県庁内の神戸銀行で前示三会計から別紙犯罪一覧表記載のとおり、昭和二十五年五月九日から同年十一月二十四日までの間五十三回にわたり、資材会計から百十二万二千八百二十五円、燃料会計から十五万七千四百五十円、住宅復興協会会計から三十万六千六百六十五円、以上合計金百五十八万六千九百四十円の払戻を受けて着服横領した、というのである。そして、原判決の挙示する証拠によると、国庫補助による庶民住宅建設については、各府県は、建設省からセメント、木材、金具等の計画住宅建設用資材の割当を受け、建設省から府県を通じて配給せられるいわゆる中央調達のものと、自県で調達したものとを、傘下の事業主体である市町村又は県営請負業者に配給し、これらの受配給者から手数料として配給資材価額の三パーセントに相当する金員を徴収して右配給事務の人件費、運賃その他の経費を支弁することになつたので、兵庫県においては、住宅課が右配給業務を所管し、兵庫県住宅建設株式会社(住建)をして資材配給の代行に当らせ、住宅課において代金を徴収し、これを県の会計に編入せず、資材会計とし、ほかに庶民住宅建設資材輸送用自動車燃料の配給事務処理のため燃料会計を設け、いずれも県の予算外会計とし、住宅課長がその出納を所管したこと、兵庫県においては、昭和二十二年頃、住宅課の仕事を後援する外廓団体として知事を会長とする法人でない社団たる兵庫県住宅復興協会が設けられ、その会計は住宅課長が協会の常務理事として所管し現金の出納保管に当つていたこと、同協会は、住宅の建築促進に関し県費をもつて賄い得ない経費又は県費で支弁することを妥当としない経費を支出する役割をも演じていたもので、最初は県の補助によつて運営されたが、経費の増加により右の資材会計から剰余金を復興協会の会計へ繰り入れて同協会の経費を賄うほか前記のような雑費の支弁に充てゝいたこと、右の計画住宅建設用資材配給事務は昭和二十五年三月をもつて廃止せられたので、被告人片山は、住宅課長に就任以来その残務整理を担当したが、建設省に代金を送付してもなお現金、残存資材、未収代金債権を合わせ合計金五百三十七万余円の余剰があり、前記住建の常務取締役日高喜代蔵から、金二百万円を住宅課に寄附することを条件に前記の剰余金品全部を住建に移譲されたい旨の交渉を受け、種々の論議はあつたが、結局住建への移譲を決意し、昭和二十五年五月十日知事代行副知事の決裁を経たが、その履行が延引し、同年十一月二十四日に至つて右住建から兵庫県に対する寄附採納願が提出されたままで検挙されたものであつて、それまで右の資材会計並びに燃料会計は住宅課長たる被告人片山名義の預金通帳により、復興協会々計は県知事名義の預金通帳により、被告人片山において現金の出納保管に当つていたこと、被告人片山の前任課長鈴木好一及びその前任課長日高喜代蔵の時代においては、資材会計から復興協会の会計に繰り入れて支弁する雑費は、建設省係官や議員等の接待費、課員の出張旅費補助や土産物代等住宅建設の目的に添うと認められる最少限度のものに限る趣旨で運用されていたのであるが、被告人片山に至つて剰余金品の処分とその一部戻入の約束ができたところから、乱費を始め、復興協会々計への繰入分のみならず直接に資材会計及び燃料会計から預金を引き出し、住宅建設促進のため必要又は妥当と認められる範囲を越えて自己又は住宅課員等の飲食遊興、その他登山、遠足等に費消するに至つたことを認め得られる。

そうすると、前記の剰余金品は、兵庫県の所有に属するものであり、かつ、住建へ移譲の決裁はあつたがその履行前においては依然として兵庫県の公金に属することは多言を要しない。ところで、原判決は、「自己又は住宅課員その他のものの飲食費、遊興費、出張旅費補助、建設省係官等の接待費」はいずれも右資金をもつて支出し得ないものであると判断したのである。しかし、右三会計の資金は、前叙の経緯に鑑がみ、住宅建設促進のため必要又は妥当と認められる範囲においては、県費支出の手続によらないで住宅課長の決裁により支弁することができたものであつて、これを一率に支出の権限を有しないと判示したのは事実の認定を誤つているといわねばならない。そして、横領罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自已の利益取得を意図することを必要としないけれども、委託の任務に反することの認識がない場合には、たとえその処分が客観的にみて違法又は不当のものであつても横領罪を構成しないのである。原判決が証拠として援用している被告人片山の司法警察員に対する第八回供述調書添附一覧表、被告人中村の同第四、五回供述調書添附各一覧表の記載を綜合すると、原判決が横領と認定した金額の中には建設省その他政府係官や議員等で住宅建設事務に関係ある者に対する接待費や土産代、課員の残業に伴う弁当代、被告人その他の課員が連絡のため東京へ出張する際の補助等、当時の社会情勢下において、被告人等が制規の県費支弁によるほかに、住宅建設促進のため必要又は妥当と考えたであろうと認められるものが相当多額に混同されている。さようなものについては、その支出方法が帳簿上料理屋等に対する支払を水増しする等の方法をとつた事実があつても、それは支出の方法において違法であつたというに止り、被告人において任務に反することの認識を欠き不法領得の意思がなかつたことになるから、横領罪が成立しないといわなければならない。原裁判所はこの不法領得の意思について審理を尽さず、一率に横領罪が成立するものと判断したのは事実を誤認したものである。論旨はいずれも理由があり、原判決は破棄を免れない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)

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